$$\newcommand{\diff}{\mathrm{d}}$$
ディラックのデルタ関数は、物理的な要請で英国の物理学者、ポール・ディラックによって考案された“超関数”と呼ばれるものですが、大概、そんなことは気にせずに”関数”として扱っています。それは、それでいいのですが、それではディラックのデルタ関数とフーリエ級数との関係はどのようなものなのでしょうか。ここでは複素フーリエ級数とディラックの関数との関係を説明して行きます。
複素フーリエ級数とは?
複素フーリエ級数は一度取り上げていますが、ここで復習しておきます。まず、複素フーリエ級数を考える上でオイラーの公式を知っていなければなりません。オイラーの公式は、次のとおりです。
$$\mathrm{e}^{ix} = \cos x+ i\sin x$$でしたね。この式から次のような式が導き出せます。
$$\begin{align*}\mathrm{e}^{inx} = \cos nx + i\sin nx \\ \mathrm{e}^{-inx} = \cos nx – i\sin nx\end{align*}$$ですので、$$\begin{align*}\cos nx = \frac{1}{2}\left(\mathrm{e}^{inx} + \mathrm{e}^{-inx}\right) \\ \sin nx = \frac{1}{2i}\left(\mathrm{e}^{inx} – \mathrm{e}^{-inx}\right) = -\frac{i}{2}\left(\mathrm{e}^{inx} – \mathrm{e}^{-inx}\right)\end{align*}$$
ここでフーリエ級数は、$$f(x) \sim a_0 + \sum_{n=1}(a_n \cos nx + b_n\sin nx)$$です。そこで、$$\begin{align*}a_n\cos nx + b_n\sin nx = \frac{1}{2}a_n\left(\mathrm{e}^{inx} + \mathrm{e}^{-inx}\right) – \frac{i}{2}\left(\mathrm{e}^{inx} – \mathrm{e}^{-inx}\right)\end{align*}$$となります。ここで、$$\begin{align*}c_0 = a_0 , \\ c_n = \frac{1}{2}\left(a_n – ib_n\right)\mathrm{e}^{inx}, \\ d_n = \frac{1}{2}\left(a_n + ib_b\right)\mathrm{e}^{-inx}\end{align*}$$と置きます。するとフーリエ級数は$$\begin{align*}f(x) \sim c_0 + \sum_{n=1}^{\infty}\left(c_n\mathrm{e}^{inx} + d_n\mathrm{e}^{-inx}\right)\end{align*}$$となります。ここで、$$c_n,\,\,\,d_n$$は、
$$\begin{align*}c_n = \frac{1}{2}\left(a_n – ib_n\right) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)(\cos nx – i\sin nx)\diff x = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\mathrm{e}^{-inx}\diff x \\ d_n = \frac{1}{2}\left(a_n + ib_n\right) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)(\cos nx + i\sin nx) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\mathrm{e}^{inx}\diff x\end{align*}$$となります。$$d_n = c_{-n}$$を置き直すと、
$$f(x) \sim c_0 + \sum_{n=1}^{\infty}(c_n\mathrm{e}^{inx} + \mathrm{e}^{-inx}) \\ = \sum_{n=1}^{\infty}c_n\mathrm{e}^{inx}, \\ c_n = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\mathrm{e}^{-inx}\diff x $$
これが複素フーリエ級数です。
ディラックのデルタ関数とフーリエ級数の関係
ここで複素フーリエ級数の出番です。
$$f(x) \sim \sum_{n=-\infty}^{\infty}c_n\mathrm{e}^{inx}, \\ c_n = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\mathrm{e}^{-inx}\diff x$$
ここで、定義域$$-\frac{ L}{2} \leq x \leq \frac{L}{2}$$で関数$$\begin{align*}f(x) = \sum_{n=-\infty}^{\infty}\dot{f}(k_n)\mathrm{e}^{ik_n x} && (1) \end{align*}$$と表すことができます。ただし、$$k_n = \frac{2\pi n}{L}$$です。$$\dot{f}(k_n)$$はフーリエ係数ですね。$$\dot{f}(k_n)$$は次のようになります。
$$\begin{align*}\dot{f}(k_n) = \frac{1}{L}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}f(x)\mathrm{e}^{-ik_n x}\diff x && (2)\end{align*}$$
ここで$$f(x)$$をデルタ関数に置き換えてみると、$$\begin{align*}\dot{f}(k_n) = \frac{1}{L}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}\delta (x)\mathrm{e}^{-ik_n x}\diff x = \frac{1}{L} && (3)\end{align*}$$となります。(3)に(1)を代入すると、$$\begin{align*}\delta (x) = \frac{1}{L}\sum_{n=-\infty}^{\infty} \mathrm{e}^{ik_n x} && (4)\end{align*}$$となります。ここで、$$\Delta k = \frac{2\pi}{L}$$とおいて(4)を書き直すと$$\begin{align*}\delta (x) = \frac{1}{2\pi}\sum_{-\infty}^{\infty}\Delta k\mathrm{e}^{ik_n x} && (5)\end{align*}$$となります。そして、極限$$L \rightarrow \infty$$をとるとnの和はkの積分になり、デルタ関数の積分表現の$$\begin{align*}\delta (x) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} \diff k \mathrm{e}^{ikx} && (6)\end{align*}$$となります。(6)は偶関数です。
まとめ
ディラックのデルタ関数とフーリエ級数との関係は、オイラーの公式が取り結びます。
ディラックのデルタ関数の積分表現が複素フーリエ級数と密接な関係があります。複素フーリエ級数からディラックのデルタ関数を代入することで、ディラックのデルタ関数の積分が求められました。そして、ディラックのデルタ関数の積分は偶関数です。