ノルムと聞いてすぐに「あれだ!」とわかる人は、もう大学数学に慣れた人です。高校数学で「距離」と言っていたものをさらに一般化したものをノルムといいます。なので、ノルムと聞いてひるむことはないのです。
また、ノルムはベクトルとも深い関係があります。ベクトルといえば、矢印のものと思い浮かべる人は、まだ、大学数学に慣れていない人です。大学数学では、ベクトルを関数として扱います。そこで内積の問題です。
ここでは関数の内積とノルムの定義について説明します。
ベクトルの内積
まず、二次元のベクトルを考えます。それを行列で表すと次のようになります。
$$r = \left(\begin{array}{c}x \\ y \end{array}\right)…………(1)$$
これはわかるでしょう。(1)で二次元平面を表すことができますが、しかし、何かが足りません。それは基底です。
$$e_1 = \left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \end{array}\right)…………(2)$$
$$e_2 = \left(\begin{array}{c}0 \\ 1 \end{array}\right)…………(3)$$
(1)がxの基底、(2)がyの基底になります。この基底を使って(1) を書き直すと次のようになります。
$$r = xe_1 + ye_2…………(4)$$
また、ベクトルAの内積は
$$|A| = \sqrt {A・A}$$
と表せますが、忘れてしまっている人は思い出してください。別段難しいことはいっていませんね。
(4)から二次元平面のある点Rは次のように書けます。
$$R = Ae_1 + Be_2…………(5)$$
また、Rは次のようにも書けるのです。
$$R = αa + βb…………(6)$$
さて、ここでαとβを求めるのですが、このときに内積を利用します。
$$\left\{\begin{array}{1} R・a = αa・a + βb・a \\ R・b = αa・b + βb・b\end{array}\right.…………(7)$$
こうしてαとβを求めればいいのですが、これは手間取ることが目に見えてます。
ここで、(5)の出番です。
$$\left\{\begin{array}{1} R・e_1 = Ae_1・e_1 + Be_2・e_1 \\ R・e_2 = Ae_1・e_2 + Be_2・e_2\end{array}\right.…………(8)$$
(8)からAとBが次のように書き換えられます。
$$A = \frac{R・e_1}{e_1・e_1}…………(9)$$
$$B = \frac{R・e_2}{e_2・e_2}…………(10)$$
関数の内積
ここで次の微分方程式を考えます。なぜなのかはその解を見ればわかります。
$$\frac{d^2f(x)}{dx^2}…………(11)$$
(11)の解f(x)は様々な解があるのですが、ここでは次の解に注目します。
$$f(x) = C_1\mathrm{e}^{iωx} + C_2\mathrm{e}^{-iωx}…………(12)$$
$$C_1とC_2は任意の数です。$$
さて、ここでf(x)を考えます。
$$f(x) = A\mathrm{e}^{iωx} + B\mathrm{e}^{-iωx}…………(13)$$
これからAとBをxに依存しない形で求めます。
ここで両辺に$$\mathrm{e}^{iωx}$$の複素共役の$$(\mathrm{e}^{iωx})^* = \mathrm{e}^{-iωx}$$をかけます。
$$(\mathrm{e}^{iωx})^*F(x) = A(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{iωx} + B(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{-iωx}…………(14)$$
(14)はそのままに、$$[-\pi, \pi]$$で積分します。
$$\int_{\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*F(x) dx = A\int_{-\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{iωx} dx + B\int_{-\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{-iωx} dx…………(15)$$
ここで$$ B\int_{-\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{-iωx} dx$$の$$\int_{-\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{-iωx} dx$$が0になるのはわかると思います。
それというのもオイラーの公式を使えば0になるのです。
被積分関数が$$\mathrm{e}^{-2iωx}$$となります。そして、オイラーの公式から$$\mathrm{e}^{-2iωx} = cos2ωx – i sin2ωx$$という周期関数の和に変換できます。これを利用すると0になります。
そして、Aが求まります。
$$A = \frac{\int_{\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*F(x) dx}{\int_{-\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{iωx})^*\mathrm{e}^{iωx} dx}…………(16)$$となります。
今度は(14)の両辺に$$(\mathrm{e}^{-iωx})^*%$$をかけます。するとBは
$$B = \frac{\int_{\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{-iωx})^*F(x) dx}{\int_{-\pi}^{\pi}(\mathrm{e}^{-iωx})^*\mathrm{e}^{-iωx} dx}…………(17)$$
ベクトルの場合、内積を使えば係数が求められました。関数でも同じようなことはできないでしょうか。ここで、
区間[a, b]上で定義される関数$$ψ_1(x), ψ_2(x)$$に関して、内積$$<ψ_1(x), ψ_2(x)>$$を次のように定義
します。
$$<ψ_1(x), ψ_2(x)> = \int_{a}^{b} ψ_1^*(x)ψ_2(x) dx…………(18)$$
(18)を使って(16)と(17)を書き換えると
$$A = \frac{<\mathrm{e}^{iωx}, F(x)>}{<\mathrm{e}^{iωx}, \mathrm{e}^{iωx}>}…………(19)$$
$$B = \frac{<\mathrm{e}^{-iωx}, F(x)>}{<\mathrm{e}^{-iωx}, \mathrm{e}^{-iωx}>}…………(20)$$
となります。これはどこかでみた形です。(9)と(10)ですね。やっと関数の内積が定義できました。
ノルムの定義
n次元ベクトルというのはわかりますよね。(1)が二次元ベクトルです。n次元ベクトルは、
$$\vec{x} = \left(\begin{array}{c} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{array}\right)$$
です。
ノルムとは、さまざまなものの「大きさ」を表す量のことです。これだけではよくわかりませんね。もっと詳しくいうと、実数上のベクトル空間Vに対して、$$x, y \in V$$と任意の実数aに関して次のような3つの性質を満たす関数のことです。
$$\cdot\|\vec{x}\| = 0 \Longleftrightarrow \vec{x} = 0 \\ \cdot\|a\vec{x}\| = |a|\|\vec{x}\| \\ \cdot\|\vec{x}\| + \|\vec{y}\| \geq \|\vec{x} + \vec{y}\|$$
$$L^pは代表的なノルムです。$$
$$\sqrt[p]{|x_1|^p + |x_2|^p + \cdots + |x_n|^p}は上記の3つを満たすことはすぐにわかると思います。$$
p = 2の場合、p = 1の場合
$$L^2ノルム:\sqrt{x_1^2 + x_2^2 + \cdots + x_n^2}$$
これは「長さ」ですね。これをユークリッドノルムともいいます。
$$L^1ノルム:|x_1| + |x_2| + \cdots + |x_n|$$
これは絶対値の総和で、「大きさ」と表現するのが一番ぴったりとくるはずです。
p = ∞の場合
$$まず、pがとても大きい場合を考えます。 \\ x_i(i \leq i \leq n)の中で一番絶対値が大きいもののひとつをx_kとします。$$
$$\sqrt[p]{|x_1|^p + |x_2|^p + \cdots + |x_n|^p} \simeq x_kとなります。$$
このことから$$L^\infty$$を絶対値最大の絶対値と定義します。これを無限大ノルム、supノルムといいます。
まとめ
ベクトルの内積は高校で勉強しているのでとても簡単に説明できますが、関数の内積はとても苦労します。途中で投げ出したくなったかもしれませんが、関数の内積はオイラーの公式が登場したことからもわかるとおりフーリエ解析で大切になります。
また、ノルムは、普通のベクトル、つまり、2次元ベクトルの場合、「長さ」に相当します。一般にノルムは「距離」を一般化した感じだと思っていてください。
ともかく、今回はとても高度な関数変換を利用していますので、知恵熱が出ないことを祈ります。